いつかの映画少年 極私的映画感  vol.10『遊星からの物体X』

路地裏の映画少年
遊星からの物体X ジョン・カーペンター(1982)

 やはり監督「ジョン・カーペンター」に尽きる。有名なクリーチャーというか、人間が異生物に変形するシーンは映画の歴史を変えたと言っても良い。そのシーンだけがテレビの特集などで流されたので、そんな不気味なクリーチャーが登場するスプラッタームービーとして有名になってしまった。当時全盛だったオカルトやゾンビなどの恐怖映画の延長であり、その不快な怖さに最初は遠慮していた。決して恐怖映画が苦手ではなかったのだが、それだけのように感じていたので、敬遠していたのが理由だった。ようやく映画館で鑑賞した時には、そのシーンは勿論、閉ざされた空間に渦巻く疑念や恐怖がうまく表現されていることで、監督の技量の高さを認識した。1951年の映画『遊星よりの物体X』のリメイクなのだが、前作のような日常空間を一切なくしたことも大きい。『遊星よりの物体X』も悪くはない作品だが、『遊星からの物体X』を観てしまうと、物足りなさしか残らない。非日常的空間だからこそ、あの〝物体〟の恐怖から生まれる不信と自己防衛の極みが際立った。原題は『The Thing』まさしく、その〝もの〟なのである。

 話は変わるがマーベル・コミックの『ファンタスティック・フォー』に出てくる岩石男の名前は「The Thing」である。他の3人に対して、人間に戻らないのが原因らしいが、会話はできているのに失礼な話だ。日本でのテレビアニメ『宇宙忍者ゴームズ』では、ガンロックという素晴らしい名前が与えられている。吹替えの影響もあるが(声優はコメディアンの関敬六)、やたらポジティブで明るい性格で人気者だった。「ムッシュムラムラ!」が流行ったのを思い出す。これは、ハンナ・バーベラ制作の「スーパースリー(原題:The Impossibles)」のコイルでもアドリブ満載で使っていた。今の人はダチョウ倶楽部のギャグと思っている人が多いのかもしれない。それも古いのだろうか。

 蛇足が過ぎたので、話を本作に戻します。
「ジョン・カーペンター」はB級映画ファンにはカリスマ的な人気のある監督ではあるが、B級映画監督と呼ぶのは適切ではない。デビュー作の『ハロウィン』は名作であり、当時の殺人鬼映画(ジャンルではスラッシャー映画)では『悪魔のいけにえ』と双璧を成すほどの傑作だった。その後、シリーズ化もされ、ブギーマンも多くの映画で登場したが、やはり「ジョン・カーペンター」の第一作目を超える作品はいまだにお目にかかっていない。個人的に、この監督のベスト3は『遊星からの物体X』と『ハロウィン』、そしてテレビ放映された「マスターズ・オブ・ホラー」シリーズの『世界の終り(Cigarette Burns)』である。特に世に知られていない『世界の終り』はチャンスがあれば是非観てほしい。カーペンターらしいチープさの中に恐怖と不快な世界が見事に描かれている。『ウォーキング・デッド』で有名になった「ノーマン・リーダス」が主役を演じている。また、この「マスターズ・オブ・ホラー」で有名なのが、三池崇史監督の「インプリント~ぼっけえ、きょうてえ~」。もう観るのもおぞましい作品で、原作の恐怖以上の不快さにDVDを持つことさえも躊躇われた。そこまで感じるならば作品としては成功なのだろうが、『世界の終り(なぜか送り仮名に〝わ〟がない)』は時折観てしまう。作品としては、こっちが正しいはず。二度と観たくない、どころか手元にも置きたくない作品なんて。まさしく呪いのDVDではないか。

 堂々と見せる。この映画の新しい視点はそこにある。そう『エイリアン2』のようなものである。この作品は『エイリアン』の〝1〟と〝2〟の間に作られたのだが(『ターミネーター』の1よりも前)、当時のSFX技術で、ここまで魅せるのは驚異的である。現在のCGを使ったVFXでは、あの質感は難しいだろう。なんと言っても、そのデザインであるのだが、映画のラスト近くになると、もう形などない、それこそ〝ただの物体〟になってしまうのだが、その表現は「スティーブン・キング」のホラー作品のラストでよく表現されたことを思い出す。最後まで本当の姿が無い「The Thing」である。こちらも、その後にシリーズものではないが、前日談である『遊星からの物体X ファーストコンタクト』が制作された。これもなかなかの佳作ではある。1951年の作品を含め、すべて原題は「The Thing」であるが、邦題はなかなか妙を得ていると思っているのは個人的な意見なのだろう。

 カーペンターはB級映画の巨匠と言われているが、このB級とはハリウッド黄金期(1930年代らしい)に大作と同時上映された添え物の作品から来ているらしい。大作に対して、低予算でつくられた映画のことなのだが、もう併映システムがなくなったので、どこかチープな作風のものを呼ぶようになった。それがタランティーノの登場で、高予算なのにチープな作りに見せる映画も増えた。カーペンター作品がB級と呼ばれるのは、やはり『ハロウィン』の影響があるのだろうか。『ハロウィン』はよく出来た作品だった。多くの人が初めてカーペンターを知った作品だが、この『遊星からの物体X』に結びつくとは予想できなかった。同じようなホラー系の作家に『悪魔のいけにえ』のトビー・フーパーがいるが、どちらも大作はもちろん、数多くの作品を作ることはなかった。同じホラー系の監督なら、やはりサム・ライミは別格のようだ。ホラーを期待するファンにとっては、どちらが望ましいのかわからないが、ただ作品自体が減ってしまうのは、映画ファンとしては寂しい限りだ。

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