狼たちの午後 シドニー・ルメット(1975)
映画少年にとって、劇場で映画を鑑賞するのは、少ない小遣いではやりくりに困ったものだった。月に観れる映画は二本が限界。今のように、サブスクで映画が観れるとは夢のまた夢。何と言っても、まだレンタルビデオもないどころか、家にビデオデッキもなかったのだから。当時は二本立てが主流と言っても、月に換算すれば四本である。ただ二本立ての場合は観たい映画とおまけの映画という組み合わせが多かった。そんな時に悩んだのがミロス・フォアマンの『カッコーの巣の上で』とシドニー・ルメットの『狼たちの午後』だった。結果として選んだのは『狼たちの午後』すでにアカデミー賞を獲った『カッコーの巣の上で』ではなかったのは、主役俳優によるところが大きかった。それでもfavorite movieとして挙げたのは、主役俳優の演技だけでなく、この映画がその後の映画鑑賞の方向性を変えたからだった。アル・パチーノ(当時はアル・パシーノと日本語では発音していた)の演技はもちろん、やはり何と言ってもシドニー・ルメットの演出だろう。原題の『Dog Day Afternoon』そのままの暑い昼下がりの出来事を想定外の展開と緊迫感、大胆なカメラワークなど、日本の刑事ドラマとはまったく異なっていた。それまで、『タワーリング・インフェルノ』『ポセイドン・アドベンチャー』などのパニックスペクタル映画を中心に選択していたが、この映画をきっかけに大きく変わったのは確かだった。
※ただし『カッコーの巣の上で』を鑑賞しても変わったかもしれない。
監督のシドニー・ルメットは、都会の、それもニューヨークを撮らせたら、ピカイチの一人だった。同じアル・パチーノ主演の『セルピコ』の他にも『プリンス・オブ・シティ』舞台は違うが『ネットワーク』もニューヨークがロケ地だった。個人的には『ネットワーク』ではオスカーを獲ってほしかった。3つの俳優部門を受賞しただけに残念。この時は『ロッキー』が作品賞と監督賞。極端に異なる作品だが、アメリカらしくはあったが、監督賞はシドニー・ルメットでも良かったと思われる。
シドニー・ルメットの劇場デビュー作は言わずと知れた『12人の怒れる男』。この時は主演男優賞も含めて、オスカーは受賞できなかった。まあ、若干34歳なのだから仕方ないけれど。この時は『戦場にかける橋』が独占した。アラン・パーカーと同じく、オスカーを獲らせたかった監督の一人である。
『12人の怒れる男』に関しては、シドニー・ルメットの劇場版だけでなく、ロシアのニキータ・ミハルコフの『12』も傑作。またテレビ映画としてウィリアム・フリードキンが撮った『12人の怒れる男/評決の行方』もあるが、こちらは未見。監督も好みだが、出演がジャック・レモン、ジョージ・C・スコットと名優ぞろいなので、一度は鑑賞したい。

この映画の見どころは、やはりアル・パチーノの演技。最初にも書いたが、この映画を選択した大きな理由が主役俳優の魅力だった。特に銀行で箱からライフルを取り出すシーンと、群衆に紙幣をばらまくシーン。予告や宣伝での、この二つに魅了されて、選んだと言っても良い。実際は、この映画のアル・パチーノはまったく格好良くはないのだが、そんな浅はかな理由も、その後の映画の方向性には第一歩には大いに役立った。ただ、アル・パチーノ自身は、この後に結構なスランプに陥る。『ボビーディアフィールド』はあらゆる面で失敗だったし、『ジャスティス』も『クルージング』も今一つだった。ようやく復活したのが『スカーフェイス』だが、映画館で観たときに、歳とったなあ、というのが第一印象だった。35才からの10年近くが出演作に恵まれなかったのは、なんとも残念であった。












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